相続税の税務調査は、所得税や法人税などと比べると、高い確率で行われています。
所得税や法人税は毎年申告書が提出されるため、税務調査をしようと思えばいつでも税務調査をすることができます。
ところが、相続税の申告は一生に一度の申告です。
もし、相続税の税務調査が行われないことで相続税の課税漏れがあったとすれば、永久に相続税の課税漏れを発見することができなくなります。
そこで、相続税はできるだけ多くの税務調査を行うようなっています。
このような事情から、相続財産の申告漏れが多く指摘されるため「調査が厳しい」ともいわれています。
相続税の税務調査の実績や調査が行われる割合などのデータを確認することで、相続税の税務調査を知る第一歩となるでしょう。
相続税の税務調査は、所得税や法人税と比べると厳しいといわれています。
では、相続税の税務調査はどれくらい行われているのでしょうか。
また、相続財産の申告漏れが指摘されたのはどれくらいの割合なのでしょうか。
平成24年11月に国税庁から公表されました「平成23事務年度(平成23年7月から平成24年6月までの間)における相続税の調査の状況について」によると、次のようなデータが浮かび上がってきます。
・
平成21年、平成22年に発生した相続を中心に税務調査を行った
・
国税局及び税務署で収集した資料情報を基に、申告額が過少であると想定されるものや、申告義務があるにもかかわらず無申告となっていることが想定されるものなどに対して税務調査を行った
・
税務調査の件数は13,787件(前事務年度13,668件)、このうち申告漏れ等があった件数は11,159件(前事務年度11,276件)で、申告漏れ等の割合は80.9%(前事務年度82.5%)となった
・
税務調査一件あたりの申告漏れ財産は2896万円、一件あたりの追徴税額は549万円となった
●相続税の調査事項
|
平成22事務
年度 |
平成23事務
年度 |
対前事
務年度比 |
① |
実地調査件数 |
件
13,668 |
件
13,787 |
%
100.9 |
② |
申告漏れ等の非違件数 |
件
11,276 |
件
11,159 |
%
99.0 |
③ |
非違割合(②/①) |
%
82.5 |
%
80.9 |
ポイント
▲1.6 |
④ |
重加算税賦課件数 |
件
1,897 |
件
1,569 |
%
82.7 |
⑤ |
重加算税賦課割合(④/②) |
%
16.8 |
%
14.1 |
ポイント
▲2.8 |
⑥ |
申告漏れ課税価格 |
億円
3,994 |
億円
3,993 |
%
100.0 |
⑦ |
⑥のうち重加算税賦課対象 |
億円
609 |
億円
581 |
%
95.4 |
⑧ |
追徴税額 |
本税 |
億円
685 |
億円
649 |
%
94.8 |
⑨ |
加算税 |
億円
112 |
億円
107 |
%
96.0 |
⑩ |
合計 |
億円
797 |
億円
757 |
%
94.9 |
⑪ |
実地調査
1件当たり |
申告漏れ
課税価格
(⑥/①) |
万円
2,922 |
万円
2,896 |
%
99.1 |
⑫ |
追徴税額
(⑩/①) |
万円
583 |
万円
549 |
%
94.1 |
(注)
「申告漏れ課税価格」は、申告漏れ相続財産額(相続時精算課税適用財産を含む。)から、被相続人の債務・葬式費用の額(調査による増減分)を控除し、相続開始前3年以内の被相続人から法定相続人等への生前贈与財産額(調査による増減分)を加えたものである。
出典:国税庁ホームページより
相続税の税務調査が行われる割合は、どれくらいなのでしょうか。
国税庁の発表によると、平成22年分(平成22年1月1日?平成22年12月31日)における相続税の申告書を提出した被相続人は49,733人。
平成22事務年度(平成22年7月から平成23年6月までの間)における税務調査は13,668件ありました。
このデータから、税務調査が行われるのはおよそ30%程度になることが読みとれます。
この30%という割合だけを聞けば、税務調査はあまり行われないのではないかと思われがちですが、実際のところはどうなのでしょうか。
国税庁の発表によると、平成22年における相続税の課税価格別の被相続人の数は次のようになっています。
●課税価格階級別(人員、課税価格、税額)
課税価格 階級 |
被相続人
の数
(人) |
課税価格
(百万円) |
課税価格 |
納付税額
(百万円) |
法定 相続人
の数
(人) |
うち相続時
精算課税
適用財産
価額
(百万円) |
うち暦年
課税分
贈与財産
価額
(百万円) |
1億円以下 |
11,970 |
1,002,457 |
24,440 |
4,946 |
14,838 |
27,272 |
1億円超 |
23,561 |
3,270,470 |
35,674 |
20,050 |
140,957 |
75,018 |
2億円超 |
7,007 |
1,693,905 |
12,860 |
10,354 |
148,010 |
24,443 |
3億円超 |
4,280 |
1,619,044 |
14,625 |
9,810 |
221,697 |
15,389 |
5億円超 |
1,459 |
857,454 |
5,397 |
5,152 |
151,809 |
5,428 |
7億円超 |
836 |
689,394 |
7,282 |
4,303 |
142,977 |
3,200 |
10億円超 |
631 |
841,366 |
5,437 |
4,195 |
204,802 |
2,446 |
20億円超 |
87 |
205,521 |
2,678 |
567 |
56,765 |
360 |
30億円超 |
46 |
174,849 |
689 |
529 |
56,039 |
187 |
50億円超 |
9 |
52,627 |
1,258 |
610 |
17,802 |
37 |
70億円超 |
3 |
25,801 |
22 |
105 |
8,223 |
13 |
100億円超 |
2 |
25,092 |
- |
1,269 |
11,450 |
8 |
合計 |
49,891 |
10,457,979 |
110,361 |
61,891 |
1,175,370 |
153,801 |
調査対象等:
平成22年中に相続が開始した被相続人から、相続、遺贈又は相続時精算課税に係る贈与により財産を取得した者(同一被相続人から財産を取得した者全員が差引税額のない場合を除く。)について、平成23年10月31日までに提出された「申告書(修正申告書を除く。)」(東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律により申告期限が延長され平成24年1月11日までに提出された申告書を含む。)に基づいて作成した。
出典:国税庁ホームページより
税務署では、税務調査にかけられる職員や時間が限られているため、できるだけ効率的に調査を進めたいと考えるのが自然ではないでしょうか。
このような事情があるとすれば、相続税の税率が高い申告書を優先的に調査したいと思うのが、税務署の心理としてあるはずです。
例えば、1000万円の課税漏れが発見できた場合。
相続税の税率が10%の方であれば、100万円の追徴しか出ません。
ところが、相続税の税率が50%の方であれば、500万円の追徴となります。
同じ時間を使って税務調査をするのであれば、多くの追徴が出る可能性がある税務調査をしたいと考えるのが自然ではないでしょうか。
つまり、相続税の課税価格の多い方を税務調査したいという心理が働くはずです。
このように考えますと、相続税の課税価格の上位30%がまず税務調査の対象になる可能性が非常に高いと考えられます。
このデータからわかることは、相続税の課税価格が
・1億円以下
・1億円超2億円未満
の被相続人の数は、全体の70%を占めることになります。
つまり、相続税の課税価格が2億円超であれば、相続税の税務調査がある可能性が非常に高いと考えて良いのではないでしょうか。
また、相続税の課税価格が
・1億円以下
・1億円超2億円未満
の方には、相続税の優遇税制により相続税が課税されていない方が多く含まれています。
このような事情を踏まえますと、実質的な税務調査の割合は50%を超えていると考えて差し支えないでしょう。
国税庁が公表している「平成23事務年度における相続税の調査の状況について」によると、申告漏れ財産のうち約52%は預貯金と有価証券となっています。
また、土地の申告漏れが16%になっていますが、申告をしていなかったという理由よりは、土地の評価方法に間違いがあったことにより修正されたという意味合いが強いのではないでしょうか。
なぜなら、土地は法務局で登記がされていますし、また「不動産」であるため、隠したくても隠せないものです。
誰が見てもわかるものを申告しないというのは、まず考えられないのではないでしょうか。
●申告漏れ相続財産の金額の構成比の推移
このデータから、相続税の税務調査では預貯金や有価証券などの金融資産を中心に調査が行われていることがわかります。
相続税の脱税で報道されるほとんどのケースは、現金や金の延べ棒を自宅に隠していたというものです。
脱税をされる方は「現金を隠してしまえば税務署にはわからないだろう」という安易な考えで脱税をされるのだと思います。
むしろ、相続税の申告時点で預貯金などの金融資産ほど正しく申告を行いたいものです。
税務署が相続税の税務調査を行うときは、事前に銀行や証券会社などで、残高や口座の動きを必ず確認します。
銀行や証券会社などで入手した資料を基に、相続税の申告書の内容が適正かどうかを判断しています。
ここで申告漏れなどの問題点が出てくれば、税務調査が行われる可能性が高くなります。
税務署は預貯金の動きを把握していますので、現金を隠したところですぐにわかってしまのは当然のことと言えます。
例えば、1000万円の現金を銀行から引き出したとすれば、預金通帳には「1000万円引き出した」という履歴が残ります。
この1000万円の現金はどうされましたか?と税務調査で聞かれるのは明らかです。
もし、この1000万円を申告しなかったとしたら「税務調査に来てください」と言っているのと同じことになるでしょう。