相続税税務調査当日の流れ

一般的な相続税の税務調査は、税務署職員が相続人の自宅を訪問する形式で行われます。
一般的には2日間行われ、問題点があれば問題点を整理し修正申告を行うかどうかの話し合いが税務署と税理士の間で行われます。
一般的な相続税の税務調査の流れをご紹介します。

1 . 相続税の税務調査、一日目

(1)税務署職員の訪問
一般的には2名程度の税務署職員が指定された日時に相続人の自宅に訪問します。
自宅から現金などが発見された場合の証拠になるよう、必ず複数の税務署職員により相続税の税務調査が行われます。
(2)税務署職員の身分証明書の提示
税務署職員からお悔やみが述べられた後、身分証明書の提示がなされます。

税務署職員が相続税の税務調査を行うときは、税務署職員であることの身分証明書を提示しなければならないことになっています。
相続税法において次のように定められています。
(相続税法60条)
税務署職員は、相続税に関する調査により質問し、若しくは検査する場合又は帳簿書類の閲覧を求め、若しくは質問する場合においては、その身分を示す証票を携帯し、利害関係人の請求があったときは、これを提示しなければならない。


税務署職員を装って「税金を払ってください」などの詐欺被害が発生しています。
ニセの税務署職員ではないことを確認するため、名刺だけではなく身分証明書の確認をしてから、相続税の税務調査を受けるようにしましょう。

また、税務調査がどのような税金の調査なのかの「目的」も確認しておきましょう。
相続税の税務調査であるにもかかわらず、まったく関係ない所得税や法人税の税務調査を行うことは認められません。
(3)相続税の税務調査は世間話から始まる
相続税の税務調査は世間話から始まります。
税務署職員からどのような世間話がされ、それはどのような目的があるのでしょうか。
一般的に行われる質問とその意図は、次のようなものがあります。
① 被相続人の死亡原因
・病気で亡くなったのか、事故で亡くなったのか。
・療養期間は長かったのか、短かったのか。
・生前、意識はハッキリとしていたのかどうか。
などが聞かれます。

例えば、病気で亡くなり入院期間が長く、生前の意識がなかった場合。
入院期間中に被相続人の銀行口座から預金が引き出されているときは、相続人が預金を引き出したことが想像できます。
その現金の行方はどうなっているのか?という疑問点が浮かび上がってきます。
② 被相続人の経歴や職歴
被相続人はどのような経歴や職歴だったのかが聞かれます。

被相続人がどのようにして財産を築きあげたのかの確認です。
・被相続人自身の収入で財産が増えたのか
・被相続人の親から財産を相続したため、財産が増えたのか
など、各人の財産の築き方が異なります。

また、その所得に見合う財産が申告されているかどうかがチェックポイントになります。
③ 被相続人の趣味
例えば、ゴルフが趣味であるときは、ゴルフ会員権を持っている可能性があります。
相続財産にゴルフ会員権が挙がっていないときは、本当にゴルフ会員権を持っていないのか?という疑問点が浮かび上がってきます。
④ 被相続人の財産を誰が管理していたのか
被相続人の財産を管理していた相続人が、相続人自身のために財産を流用していた場合。
相続人の財産なのか被相続人の財産なのかの区別がつきません。
このような場合、被相続人の財産が少なく申告されている可能性があるという疑問点が浮かび上がってきます。
⑤ 相続人の家族の職業
相続人の収入を確認します。
収入に対して預金されている金額が多額であるときは、被相続人から生前に現金が異動している可能性があります。

また、配偶者の収入が年金だけであるにもかかわらず、預金残高が多額であるときは大きな疑問点となります。
被相続人と相続人の預金残高のバランスがチェックされます。
⑥ 農協と取引があるかどうか
一般的に、大都市圏以外の地域では農協との取引が多く行われています。
相続税の申告書に農協の預貯金などが記載されていない場合は、申告漏れの可能性があります。
⑦ 相続税の納税はどのようにして行ったのか
相続税は現金で支払うことが原則となっていますので、多額の現金が必要となります。
その相続税を支払うための現金をどのようにして準備したのか?が聞かれます。

相続人自身の収入で貯めた預金から支払った場合や、相続した預金から支払ったのであれば説明がつきます。
これが、子供の代わりに親が払っていたとなると、相続税を支払うための現金を贈与したということになり、贈与税の問題が出てきます。
⑧ 金融機関名を直接言われる
税務署が相続税の税務調査を行う場合、事前にそれなりの証拠をつかんでいます。
そのため、○○銀行と取引はありますか?などの質問がされた場合、確実に証拠を握っていると判断して差し支えありません。
このようなとき、相続人自身もその預金の存在を知らないことがありますので、確認をして相続税の申告書に記載漏れがないかどうかチェックする必要があるでしょう。
(4)相続人の筆跡確認
相続人代表の方は、他の相続人の氏名などを税務署が用意した便せんに書かされます。
被相続人の財産を管理していた相続人の筆跡をとっておくことで、被相続人の銀行口座やその他の書類の筆跡と照合することができます。
(5)昼食の休憩
昼食の時間になると一旦休憩に入ります。
税務署職員は、相続人の自宅の近くで昼食を済ませます。

この休憩の間に午後から再開される税務調査の進め方の打ち合わせが、相続人側・税務署側双方で行われることになるでしょう。
(6)重要書類の保管場所の確認
預金通帳や印鑑、そして不動産の権利書などの重要な書類の保管場所を確認します。
これらの書類が自宅の金庫の中に保管されているときは、税務署職員は金庫の場所までついていき、金庫の中を開けさせて金庫の中を調べます。

金庫の中には、メモ書きなどを含めていろいろな書類が入っているかと思います。
もし、被相続人には関係ないような書類が混ざっていると誤解を招く可能性もあるので、不要なものは事前に整理しておくことも必要かと思います。

一応は「任意」の税務調査ということになっているため、税務署職員が勝手に家の中を捜しまわったり、勝手にタンスの中や金庫を開けて部屋の中を確認することはありません。
しかしながら、事実上相続人は税務署職員からの要請に拒否することができませんので、相続人にとっては「家の中を勝手に荒らされた」という印象を持ってしまうのは致し方ありません。

相続税の税務調査といえども、相続人にはプライバシーというものがあります。
寝室を勝手に見られたなどのプライバシーが侵害されたり税務署職員が高圧的な態度であるなど、常識的に考えて理解できないような相続税の税務調査が行われたときは、国税局や税務署に相談することも必要です。
(7)印鑑の確認
税務署が用意している便せんに朱肉を押さずにまず印鑑を押します。
その理由は、そのまま押印することで印影が残るということは、この印鑑が最近使われたことを意味します。

その後、朱肉をつけてすべての印鑑の印影を便せんに押して持ち帰ります。
印影があれば、家族名義の預金などを判断することができます。

金庫の中に相続人や孫の印鑑が入っていたりすると誤解を招くことになりますので、不要なものは事前に整理しておくことも必要かと思います。
(8)貸金庫の確認
被相続人が貸金庫を利用しているときは、必ず貸金庫の中はチェックされると考えてよいでしょう。
なぜなら、わざわざ貸金庫を借りるくらいですので、そこには何か重要なものが保管されているに違いないと考えられるためです。

税務署職員は相続人に同行し、銀行などで貸金庫を開けてもらい貸金庫の中を確認します。
(9)トイレを借りるフリをして室内をチェック
税務署職員は、必ずといってよいほどトイレを借ります。
なぜなら、家の中を歩き回ることで庭園・絵画・骨董品・家具など家の状況を確認することができます。

例えば、銀行や証券会社のカレンダーやタオルが室内にあるかどうかを確認します。
カレンダーやタオルがあるということは、その銀行や証券会社と取引があるという証拠となります。
相続税の申告書にこれらの金融機関の預金や証券の口座があるかどうかをチェックします。


もし、これらの金融機関の財産が相続税の申告書に記載されていなければ、申告漏れとなっているのではないかと疑われます。

2 . 相続税の税務調査、二日目

(10)香典などの確認
香典・年賀状・電話帳・日記などがあれば税務署職員は確認を行います。

例えば、これらの書類に金融機関の名前が含まれている場合、何らかの取引があることが予想されます。
もし、提出された相続税の申告書にこれらの金融機関の財産が記載されていないとすれば、申告漏れとなっているのではないかと疑われます。
(11)税務署が事前に整理をしてきた疑問点の質問
相続税の税務調査が行われるということは、税務署は何らかの疑いの目を持っています。
事前に行った調査により出てきた疑問点を相続人に質問します。

この質問と相続人の自宅で提示を受けた資料をもとに、疑問点を精査していきます。
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