相続税の税務調査を行う先はどのように選ばれるのか

税務署では、相続税の申告書が提出されると、その申告書が適正に作成されているかどうかを確認する作業を行っています。
この確認作業の中で、相続財産が少ない・相続税の計算方法が間違っているなどの疑問点がある相続税の申告書が出てきます。
このようにして、相続税の税務調査を行う先を選んでいます。

では、具体的に税務署ではどのようにして相続税の申告書が適正かどうかの確認を行っているのでしょうか。
これから、税務署内部でどのような調査をしているのかをご紹介していきます。
相続人には直接関係ないのですが、これらを理解することはとても重要なことだと思います。
なぜなら、税務調査にならない相続税の申告書はどのように作成すればよいのかを知る手掛かりになるためです。

1 . 相続税の税務調査を行う先を選ぶ

<資料の収集>
相続税の申告書が提出されますと、税務署では「資産課税」部門において、相続税の申告書の内容を簡単にチェックします。
その後、相続税の申告書に記載された内容について、銀行や証券会社などへ残高や口座の動きを確認していきます。
銀行や証券会社などから入手した資料と、税務署内で定められている基準(職業や収入など)により、相続税の税務調査を行う先を選んでいきます。

相続税の税務調査を行う先を選ぶうえで、国税総合管理(KSK)システムが重要な役割を果たしています。
詳しくは後程ご紹介しますが、国税総合管理(KSK)システムとは、全国の国税局と税務署をコンピュータのネットワークで結び、納税者が確定申告したデータなどを一元管理するシステムです。

このKSKシステムを利用して、被相続人の名前で検索をかけることで、過去の確定申告書のデータが瞬時にわかります。
その他、税務署が収集した各種資料のデータも入力されていることから、より被相続人の状況を把握することができます。
税務署が収集する資料には、次のようなものがあります。
(税務署に提出することが義務付けられている資料)
・所得税の確定申告書
・財産及び債務に関する明細書
・贈与税の申告書
・生命保険金の支払調書
・退職金の支払調書
・不動産等の譲渡対価の支払調書
など
(税務署が独自に収集した資料)
・不動産の登記事項証明書
・固定資産税の課税台帳
・高級車の購入リスト
・別荘やリゾート会員権などの購入リスト
・新聞記事
など
このような資料を整理することで、被相続人がどのような財産を持っているのかが丸裸にされます。
提出された相続税の申告書の内容と税務署が調査したデータを照合することで、申告漏れの財産が発見されることになります。

申告漏れの財産が発見されれば、実地での税務調査になる可能性があります。
実地での税務調査は、相続人の自宅に訪問して行われることになります。

2 . 相続税の税務調査を行う先に選ばれやすい事例

相続税の税務調査が行われやすい相続税の申告書とはどのようなものでしょうか。
次のような項目に当てはまる相続税の申告書は特に注意が必要です。
① 家族名義の預貯金が多額にある
② 預貯金の出入りが多い、出金理由がわからないものが多い
③ 銀行の貸金庫を利用している
④ 職業や収入から考えて相続財産が少なすぎる
⑤ 証券会社に家族名義の口座があり残高が多額にある
⑥ 海外送金をしているのに、海外の財産の申告がない
⑦ 税法の解釈や計算間違いをしている
⑧ 広大地の評価をしている土地がある
① 家族名義の預貯金が多額にある
相続税の申告書が提出されますと、税務署は相続税の申告書に記載された預貯金について、銀行などの金融機関へ残高や口座の動きを確認します。
確認するのは被相続人名義の口座だけではなく、配偶者や子供などの家族名義の口座も調べます。


この確認作業で、家族名義の預貯金が多いときは、その預貯金がどのようにして貯蓄されたのかを調べます。
どのような点をチェックされるのかといいますと、
・預貯金の名義となっている家族(例えば子供)自身が、自身の給与などの収入で貯蓄したのか?
・被相続人から現金を贈与されたのか?
などです。

さらに、
・親子間の口座で資金移動があるか?
・いつ、その口座に入金されたのか?
など詳細を調べていきます。

税務署が税務調査を行うかどうかを判断するとき、この預貯金の調査を最も重点的に行われているといっても差し支えありません。
なぜ、税務署は預貯金を重点的に調査をするのでしょうか。
それは、家族名義の預貯金が本当は被相続人の預貯金ではないかと疑いの目で見ているためです。

税務上、家族名義の預貯金とは、預貯金の名義となっている人と実質的にその預貯金の所有者が異なる預貯金のことをいいます。
例えば、本当は被相続人の親の預貯金なのに、単に名義だけが相続人である配偶者や子供、そして孫のような家族の名義になっている預貯金のことです。

単に家族の名義を借りた預貯金は被相続人の財産とされますので、相続財産として相続税の申告書に記載しなければなりません。
もし、相続税の申告書に記載していなければ申告漏れの対象となりますので、相続税の税務調査では必ず指摘されます。

特に注意をしなければならないのは、次のような方の口座です。
・年金収入で生活している配偶者
・専業主婦であるため収入がない配偶者
・パートなど収入が少ない配偶者
・未成年の孫
・学生の孫

配偶者や孫は収入が少ない傾向にあるため、親の相続で財産を取得したり、贈与で財産を取得しなければ、配偶者や孫の財産は基本的には増えません。
このような状況で、配偶者や孫の名義の預貯金口座に多額の残高があったとすれば、被相続人の収入で貯蓄した現金を配偶者や孫の名義の口座に入れたと考えるのが自然です。
また、配偶者や孫に収入があったとしても、その収入に比べて預貯金が多額であるときも同様です。

このようなことから、配偶者や孫など家族名義の預貯金が多額であるときは、相続税の税務調査になる可能性が非常に高くなります。



もし、配偶者や孫が被相続人から贈与を受けているときは、税務署は本当に贈与があったのかを確認します。
贈与税の申告がされていたとしても、本当は贈与されていないと判断されれば、その贈与はなかったものとされ、家族名義の預貯金として相続財産とされることがあります。
単に、被相続人から配偶者や孫へ名義を変えれば贈与になるというものではありませんので、贈与をするときは注意が必要です。
② 預貯金の出入りが多い、出金理由がわからないものが多い
預貯金の入金や出金の回数が多い、それだけで相続税の税務調査の可能性が高まります。
なぜなら、一般的な日常生活において預貯金の入出金は、その回数は多くはないためです。

例えば、給与や年金の振り込みがあり、生活に必要な現金を引出すことが一般的な預貯金口座の使い方です。
不動産賃貸をされているような方であれば、毎月末に定期的に賃料の振込があるなど、入金の理由が明確であれば何ら問題はありません。

給与や年金の振込以外に入金が頻繁にあるときは、何らかの理由があるはずです。
また、生活費以外に頻繁に出金があるときは、これも何らかの理由があるはずです。
このような入金や出金の状況が相続税の申告書に反映されていないときは、相続税の税務調査の可能性が高まります。

特に、高額の出金には要注意です。
税務署は預貯金の入出金は確実にチェックをしています。
出金をするということは、何らかの理由があるはずです。
・車を買った
・金(ゴールド)を買った
・家のリフォームをした
・孫の学費の援助をした
・親族に贈与をした
などです。

出金をした理由が金(ゴールド)を買ったのであれば、相続税の申告書に「金(ゴールド)」が挙がっていないとつじつまが合いません。
また、親族に贈与をした場合、それが相続開始前3年以内に贈与されているのであれば、これも相続税の申告書に挙がっていないとつじつまが合いません。

出金された現金がその後どのように使われているのか?という点は、相続税の税務調査では必ず質問されます。
しかしながら、実際にその現金を使ったのは被相続人です。
その現金をどのように使ったのかは、亡くなった本人にしかわからないということも事実です。
現金を引き出したことさえ家族は把握していないことが多く、わからないものは「わからない」と正直に答えるしかありません。
③ 銀行の貸金庫を利用している
貸金庫は、重要な書類などを保管するために利用されるのではないでしょうか。
土地の権利書などをはじめ、場合によっては現金を保管することもあります。
一般的な話として、貸金庫を利用していれば貸金庫の中に重要な財産が保管されていると考えるのが自然ではないでしょうか。

このようなことから、銀行の貸金庫を利用しているときは、相続税の税務調査では貸金庫の中は必ず調べられると考えたほうがよいでしょう。

税務署は、貸金庫の中を調べることができませんので、それを調べるとなると相続人の立ち会いにより相続税の税務調査をするしかありません。
ただし、税務署は被相続人が貸金庫を利用していたかどうかは簡単に調べることができます。
さらに、いつ・誰が貸金庫を開けたかどうかもわかります。

特に、被相続人の死亡直前や死亡直後に貸金庫が開いた形跡があると、貸金庫の中に何かがあると疑われる可能性が高くなります。
④ 職業や収入から考えて相続財産が少なすぎる
相続税の申告書を提出される方であれば、高額な所得になる可能性が高いため、所得税の確定申告書を毎年税務署に提出していることが考えられます。
また、税務署には所得税の確定申告書が保存されており、10年以上前というような古い所得税の確定申告書のデータも税務署のコンピュータシステムの中に保存されています。
つまり、税務署は被相続人の所得や収入のデータを詳細に把握することができます。

所得や収入が多ければ、相続税が課税される相続財産も多くなることが予想されます。
税務署は、被相続人の職業や収入の状況から「相続財産としてこの程度あるはず」といった数字をはじき出します。
このはじき出された数字と実際に提出された相続税の申告書に記載された相続財産とを比較して、相続税の申告書の内容の妥当性を検証します。

もし、提出された相続税の申告書に記載された相続財産が少なければ、申告漏れの可能性があるのでは?と疑われます。

特に、会社経営者・医師・弁護士のような所得が高いと思われる職業の方は注意深く確認作業が行われる傾向にあるため、注意が必要です。
⑤ 証券会社に家族名義の口座があり残高が多額にある
相続税の申告書が提出されますと、税務署は相続税の申告書に記載された投資信託や上場株について、証券会社などの金融機関へ残高や口座の動きを確認します。
確認するのは被相続人名義の口座だけではなく、配偶者や子供などの家族名義の口座も調べます。

この確認作業では、家族名義の預貯金と同様に、その証券口座がどのようにして運営・管理されていたのかを調べます。
特に、上場株の売買が頻繁に行われているときは、この口座は誰が管理していたのか?がポイントになります。
例えば、未成年の孫名義の証券口座がだったとしても、未成年の孫本人が上場株の売買をしていたのか?未成年の孫本人に株の売買の知識があるのか?などが問題になります。
常識的に考えて、孫の名義にはなっているが被相続人がこの証券口座を管理していたと思われても仕方がないでしょう。

孫などの名義だけを借りた証券口座を被相続人の相続財産として相続税の申告書に記載しておくことで、相続税の申告書を作成した税理士はしっかりとチェックしているという印象を税務署に与えることもできましょう。
このような姿勢で相続税の申告書を作成すれば、相続税の税務調査を避ける一つの要因になると考えられます。


また、投資信託や上場株には配当金が支払われることがあります。
この配当金が誰の口座に振り込まれているのか?ということも重要になります。

投資信託や上場株の名義が家族だったとしても、これらの配当金を被相続人が受け取っていれば、投資信託や上場株の本当の所有者は被相続人なのではないか?と疑われても仕方ありません。
⑥ 海外送金をしているのに、海外の財産の申告がない
海外の銀行に100万円超の送金をすると、振り込みをした銀行から税務署へ報告書が提出されます。
また、海外送金をするときの書類には「送金の目的」を必ず記載しなければなりません。
例えば、不動産を購入するためといった送金の目的です。
海外送金をするとき、必ずといっていいほど契約書や請求書のコピーの提出が求められます。
契約書や請求書のコピーの提出がなければ海外送金そのものが実行できませんので、送金目的はウソがつけません。

一般的に海外の不動産や投資商品を購入するときは100万円を超えるため、税務署は銀行からの報告で被相続人が海外送金をしたことを知っています。
もし、被相続人が海外送金をしていれば、海外の財産が相続税の申告書に記載されていると税務署は考えています。
このような状況で、海外の財産が相続税の申告書に記載されていなければ、申告漏れの対象になることは言うまでもありません。

海外の財産なので相続税の申告をしなくても税務署にはバレないだろう、という考えはやめたほうがよいでしょう。


また、子供や孫が海外に留学するために、学費や生活費として海外送金を行うこともあります。
この場合、子供や孫名義の海外銀行の口座に振り込まれることになりますが、その口座に現金が残っていたとすれば、相続財産となります。
家族名義の預貯金口座と同様、口座の名義が誰であるかは関係なく、実質的にその口座に預けられている現金は誰の収入によって得られたのかがポイントになります。
⑦ 税法の解釈や計算間違いをしている
相続税の申告書は、相続税法などにより相続財産を評価し、小規模宅地の特例などの評価減を適用して、相続税を計算します。
特に、税理士ではなく相続人ご自身が相続税の申告書を作成したときは、次のようなことが起こりえます。
・相続財産の評価に誤りがある
・根本的に計算間違いをしている
・相続税法の解釈が間違っている(適用できない制度を考慮して相続税を計算してしまっている)

例えば、相続財産が土地であるときは、次のようなことが挙げられます。
・路線価の見方が誤っている
・借地権割合や借家権割合について、正しい区分により計算できていない
・被相続人の土地に子供が家を建てて住んでいるが、貸家建付地として評価をしている
・小規模宅地の特例について、正しい計算がされていない
・広大地ではない土地であるのに、土地が広いという理由だけで広大地の評価をしている

このような計算ミスや相続税の解釈のミスは、相続税に詳しくない税理士の場合にも起こります。
このようなミスは、相続税の申告書を一目見るだけで発見することができます。
一目で計算ミスがわかる申告書を提出した場合には、相続税の申告期限から半年あまりで相続税の税務調査が行われる可能性があります。
⑧ 広大地の評価をしている土地がある
広大地の評価がされている土地があるときは、相続税の税務調査が行われる可能性が高まります。

広大地の評価は、無条件で土地の評価は4割引からスタートします。
そのため、土地の評価をするときに広大地評価ができるのか・できないのかで、大きく相続税額が変わってきます。
ここで問題になるのは、広大地の評価をする判断がとても難しいことです。

広大地とは、単に面積が広い土地という意味ではありません。
広大地の定義は、財産評価基本通達24-4において、次のように定められています。

(財産評価基本通達24-4)
広大地とは、その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地で、都市計画法に規定する開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるものをいいます。
ただし、大規模工場用地に該当するもの及び中高層の集合住宅等の敷地用地に適しているものは除きます。

ここでポイントになるのは、
・標準的な土地に比べて著しく広い土地である
・開発行為を行うとすれば、公共公益的施設用地の負担が必要である
・大規模な工場用地は除かれる
・マンションの敷地に相応しい土地は除かれる
ことです。

そのため、単に面積が広いとう理由だけで広大地の評価を行っていれば、相続税の税務調査が行われると考えてよいでしょう。
なぜなら、この土地の評価は4割引からスタートしていますので、4割引があるのか・ないのかでは、相続税評価は大きく変わってきます。
もし、広大地の評価が認められなければ、土地の評価が小さかったということになりますので、結果的に相続財産の評価間違いによる申告漏れということになります。

3 . 税務署はどのように個人情報を収集しているのか?

相続税の申告書が提出されますと、税務署では「資産課税」部門において、相続税の申告書の内容を簡単にチェックします。
その後、相続税の申告書に記載された内容について、銀行や証券会社などへ残高や口座の動きを確認していきます。
銀行や証券会社などから入手した資料と、税務署内で定められている基準(職業や収入など)により、相続税の税務調査を行う先を選んでいきます。

相続税の税務調査を行う先を選ぶうえで、国税総合管理(KSK)システムが重要な役割を果たしています。

国税総合管理(KSK)システムとは、全国の国税局と税務署をコンピュータのネットワークで結び、納税者が確定申告したデータなどを一元管理するシステムです。
KSKシステムが導入されたことで、税務署でのデータ処理能力が大幅に向上しました。
これまでのような手作業では把握できなかった資料や情報を、全国から収集することが可能となったためです。

KSKシステムが活用されることで税務調査が効果的に行われるようになり、課税の不公平感の解消が期待されています。

納税者にとっては、より厳しい相続税の税務調査が行われると考えられるため、相続税の税務調査を受けないような適正な相続税の申告書の作成が求められるのではないでしょうか。
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